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大阪地方裁判所 昭和39年(わ)918号 判決 1966年2月26日

本店所在地

大阪市東成区大今里本町四丁目五番地

被告人

下村諸機株式会社

右代表者

代表取締役

下村清之佐

本籍

大阪市東成区南中本町一丁目一六八

住居

大阪市東成区南中本町二丁目七〇番地

職業

機械会社社長

被告人

下村清之佐

明治三七年三月六日生

右の者らにたいする各法人税法違反被告事件について、検察官加藤圭一出席のうえ審理をし、つぎのとおり判決する。

主文

被告人下村諸機株式会社を、判示第一の事実につき罰金二二〇万円に、判示第二の事実につき罰金三八〇万円にそれぞれ処する。

被告人下村清之佐を懲役八ケ月に処する。

被告人下村清之佐につき、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人下村諸機株式会社(以下被告会社という)は大阪市東成区大今里本町四丁目五番地に本店を置き、諸機械の売買ならびにこれに附帯する一切の事業を営むことを目的とする株式会社であり、被告人下村清之佐はその代表者(代表取締役)であるが、

第一、被告会社における昭和三五年二月一日から昭和三六年一月三一日までの事業年度における法人税法所定の所得金額は二六、九一八、四二八円であり、これにたいする法人税額は一〇、一二八、九六〇円であるのにもかかわらず、被告人下村清之佐は、被告会社の業務に関し、材料の期末たな卸高を過少に計上するの不正経理を行って右所得のうち二二、七四〇、一五七円を秘匿し、法定の提出期限日である昭和三六年三月三一日、所轄東成税務署において、同署長あてに、同事業年度の被告会社の所得金額は四、一七八、二七一円でありこれにたいする法人税額は一、四八七、七一〇円である旨過少に記載した法人税確定申告書を提出するの違反行為をし、この不正の行為により即日同会社は同事業年度の所得にたいする法人税中八、六四一、二五〇円を免れ、

第二、被告会社における昭和三六年二月一日から昭和三七年一月三一日までの事業年度における法人税法所定の所得金額は五四、〇八〇、一二五円であり、これにたいする法人税額は二〇、四五〇、四一〇円であるのにもかかわらず、被告人下村清之佐は、被告会社の業務に関し、前同様の不正経理を行って右所得のうち三八、六八二、六三五円を秘匿し、法定の提出期限日である昭和三七年三月三一日、所轄東成税務署において、同署長あてに、同事業年度の被告会社の所得金額は一五、三九七、四九〇円でありこれにたいする法人税額は五、七五一、〇一〇円である旨過少に記載した法人税確定申告書を提出するの違反行為をし、この不正の行為により即日同会社は同事業年度の所得にたいする法人税中一四、六九九、四〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

全事実につき

一、会社登記簿謄本

一、昭和三五年三月三一日提出の法人税申告書写

一、昭和三六年三月三一日提出の法人税申告書写

一、昭和三七年三月三一日提出の法人税申告書写

一、第三回公判調書中証人森本寿親の供述記載

一、第三回公判調書中証人松原満の供述記載

一、東栄鋼業株式会社の仕入帳二冊(昭和三九年押第一一一二号の符号5および6)

一、東栄鋼業株式会社の売上帳二冊(押前同号の符号7および8)

一、被告会社の買掛帳二冊(押前同号の符号2および3)

一、被告会社の買掛帳二冊(押前同号の符号1および4)

一、証人下村麻瑳男の第六回公判期日における供述

一、右同人作成の鋼材仕入明細書

一、被告人下村清之佐の検察官にたいする供述調書三通

一、被告会社代表取締役下村清之佐の昭和三九年三月一六日付上申書

一、紀ノ国谷誠之助の供述調書

一、証人下村麻瑳男の第九回公判期日における供述

一、証人川野武男の当公判廷における供述

(説明)

一、架空仕入について

検察官は、被告会社の帳簿上の仕入のうち東栄鋼業株式会社からの分昭和三五年度計四七九、九四八キログラム、二一、九七一、九四五円のうち二〇四、二五〇キログラム、八、九三六、二九五円、および、昭和三六年度計二、八〇一、四六〇キログラム、一一七、三八六、四〇六円のうち二、四二五、〇三五キログラム、一〇〇、五五〇、九六二円を一応否認し、被告人下村清之佐が検察官調書中で述べている昭和三五年度二〇〇トン、昭和三六年度一、二〇〇トン、これに同じく同被告人が右調書中で正当時価として述べている一トンあたりの単価五五、〇〇〇円を乗じた昭和三五年度一一、〇〇〇、〇〇〇円、昭和三六年度六六、〇〇〇、〇〇〇円と右一応の否認分との差を架空仕入である(その結果昭和三五年度においては架空仕入を計上したというよりも仕入を除外したことになってしまっているが)と主張している。

しかし、証拠によれば、右東栄鋼業からの仕入中一応否認の対象となったものは、検察官も結果的には認めているように、実質的には被告人下村個人が自己の手持鋼材を昭和三五年度において二〇〇トン、昭和三六年度において一、二〇〇トンそれぞれ被告会社に売渡した取引を、東栄鋼業からの支入のように仮装して記帳したものであることが認められる。

ただ、この記帳にあたっては単価を一キログラムあたり約四〇円とするかわりにトン数を実際の取引量より過大に記載しており、したがって被告下村個人と被告会社間の取引の内容をとらえるにあたっては、それは記帳された単価と実際のトン数によって規定されるとし、実際のトン数より超過するトン数に右記帳の単価を乗じた分はあくまで架空仕入である、とするのもひとつの見方ではあると考える。しかし、このように東栄鋼業の名を使ったうえ、さらに単価を約四〇円とする一方、トン数を過大にしたのは、弁護人が主張するように被告会社において脱税をはかる目的からよりもむしろ被告人下村個人の所得を隠すための工作としてなされたものとも考えられるのであり、単価をいくらとしトン数をいくらとして記帳するかはたんに記帳にさいしての技術上の問題にしか過ぎず、しかも現実に記帳どおりの単価と記帳どおりのトン数で算出された代金が被告会社の資産から流出して東栄鋼業の手を通じ(そのさい若干の手数料が取られているが)被告人下村個人の手に入手されている(もっとも、被告人下村個人の手に入手されたのか被告会社代表者たる下村清之佐の手に入手されたのか、したがってまた入手された結果が被告人下村個人の資産として蓄積され利用されたのか、被告会社の隠し資産として蓄積され利用されたのかはにわかに断定しがたいが、本件のごとき個人会社にあっては将来の活用の便宜のためにも会社所有のものとしてよりも経営者個人所有のものとして資産が隠されるのが通例であり、被告人の主張にしたがい被告人下村個人の手に入手されたものとみる。)のであるから、被告会社と被告人下村個人とのあいだの取引内容は、昭和三五年度においては鋼材二〇〇トンが総代金八、九三六、二九五円で売買され、昭和三六年度においては鋼材一、二〇〇トンが総代金一〇〇、五五〇、九六二円で売買されたとみるのが相当である。

このようにみたばあい、昭和三五年度はともかくとして、昭和三六年度の取引単価はトンあたり八万四千円弱となり、正当な時価(被告人の当公判廷における主張によってもその時価は六万数千円に過ぎない)をかなり上廻っていることになるが、検察官が容認することにしているトンあたりの時価五五、〇〇〇円と比較したばあい何倍もの高額というわけでもなく、時価超過分をもって売買代金に名をかりた会社利益の処分にほかならないとただちに断じ得るほどのこともない。

結局本件においては、検察官主張のような架空仕入の存在を認めない。なお、租税行政の立場からすれば、被告会社は同族会社であるから、当時の法人税法第三一条の三の規定により、更正または決定をするさいに時価超過分を否認し利益処分による賞与とみなすことができるが、刑事罰を課するかどうかの立場からするときは、本件のような場合でも、確定申告の段階ですでに右否認の対象となる時価超過分相当の利益を隠匿し、この利益に対応する税金を不正行為によって免れた(すなわちほ脱犯が成立する)とすることはできないと考える。

二、材料の期末たな卸高の過少計上について

両年度とも材料の期末たな卸高に過少計上のあったことは、被告らにおいて争わないし証拠上もあきらかである。そして除外たなおろし高の算定にあたり本件では検察官主張の方法をとることが許されると考える。

ただ、(1)昭和三五年度分の算定にあたり期中使用鋼材として公表期末仕掛品にたいする使用鋼材を加えるべきであり、その量はにわかに確定しがたいから、同仕掛品が完成したときに使用されていた鋼材と同量(五五、五七五キログラム)の鋼材が期末仕掛品の段階ですでに使用されていたものと取扱う。(2)したがって、昭和三六年度分の使用鋼材量の算定にあたっては、検察官主張の完成品への使用鋼材量から右前年度仕掛品使用鋼材量を差引かなければならない。(3)昭和三六年度の使用鋼材量中仕掛品に対応するものの量は、検察官主張では被告人下村清之佐の検察官に対する供述調書中の記載にしたがい一二〇トンとなっているが、右数量の供述はかならずしも正確ではないから、被告人側に有利に取扱い、被告人ら主張の同仕掛品の完成時における使用鋼材量をもつて期末仕掛品の段階での鋼材使用量とする。

つぎに期末たな卸材料の単価であるが、被告会社は最終仕入原価法をとるものである。しかし各種類別に最終仕入原価を出すことは資料上不可能である(たんに訴訟資料上不可能であるばかりでなく、被告人らにおいてもこれを出すだけの資料を持っていない)から、このような場合においては、検察官主張のような総平均法的方法で算出した単価をもって最終仕入原価の平均単価であると推定することが許されると考える。

ただ、(1)昭和三五年度分の単価算定にあたっては公表期首たな卸数量とその金額を考慮に入れるべきである。(2)昭和三六年度分の単価算定にあたっては、その期中に被告人下村個人から一、二〇〇トンの鋼材を一〇〇、五五〇、九六二円で仕入れたとされるため、検察官主張の単価をかなり上廻る結果が出てくる(すなわち被告人らにそれだけ不利になる)が、これは、被告人の主張を容れて検察官主張の架空仕入を認めたかったことによる当然の帰結である(訴因変更等の手続を要しない)。

以上のような修整を行って各期末除外たな卸材料高を算定するとつぎのとおりである。

第1. 除外数量

昭和35年度

A+(B+C)-(D+E)-F=493,298(キログラム)=M

ただしA………公表期首たな卸量: 56,000

B………期中仕入鋼材量中被告人下村個人以外からの分: 1,381,513

C………同被告人下村個人からの分: 200,000

D………期中使用鋼材量中完成品への分: 1,007,140

E………同仕掛品への分: 55,575

F………公表期末たな卸量: 81,500

昭和36年度

G+(H+I)-(J+K)-L=1,053,578(キログラム)=N

ただしG………期首たな卸量=F+M: 574,798

H………期中仕入鋼材量中被告人下村個人以外からの分: 893,323

I………同被告人下村個人からの分: 1,200,000

J………期中使用鋼材量中完成品への分: 1,350,292-E=1,294,717

K………同仕掛品への分: 211,325

L………公表期末たな卸量: 108,500

第2. 単価(円未満2捨3入)

昭和35年度

{O+(P+Q)}÷{A+(B+C)}=4605(円)=V

ただしO………公表期首たな卸金額: 2,582,500

P………期中鋼材仕入金額中被告人下村個人以外からの分: 64,720,020

Q………同被告人下村個人からの分: 8,936,295

昭和36年度

{(R+Y)+(S+T)}÷{(F+M)+(H+I)}=64.0円=W

ただしR………公表期首たな卸金額: 3,548,000

Y………期首(前年度期末)除外たな卸金額(後記のとおり)

S………期中鋼材仕入金額中被告人下村個人以外からの分: 43,442,493

T………同被告人下村個人からの分: 100,550,962

第3. 期末除外たな卸材料高

昭和35年度

M×V=22,938,357(円)=Y

昭和36年度

N×W=67,428,992(円)

三、秘匿所得金額について

二で算出した期末除外材料たな卸高を基礎にして各年度につきつぎのごとき別口損益計算書を作成して算定する。

別口損益計算書

昭和三五年度

<省略>

昭和三六年度

<省略>

(法令の適用)

罰条 第一、第二の各事実につきそれぞれ

昭和四〇年法律第三四号附則第一九条、同法律による改正前の法人税法第四八条第一項第五一条第一項(被告人下村清之佐についてはいずれも懲役刑を選択する)

併合罪 刑法第四五条前段

被告人下村清之佐につき

刑法第四七条、第一〇条(重い第二の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で処断する)

被告人下村諸機株式会社につき

昭和三七年法律第四五号附則第一一項、同法律による削除前の法人税法第五二条(各事実ごとに罰金刑を科する)

執行猶予(被告人下村清之佐につき)

刑法第二五条第一項

なお、本件審理の経過にかんがみるとき、訴訟費用は、そのいずれであれ被告人らにこれを負担させるのは相当でない。

以上

(裁判官 岡本健)

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